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旅の写真日記

+ キルギスで馬旅(全5頁)

旅の写真日記
キルギスで馬旅 (5)

その日の夕食はマカロニスープとパンとチャイ。僕らの食卓は、来客用ユルト(=キルギス式移動式住居)の中。マクサット君と、ユルトのお母さんとその子どもの4人でいただいた。
お腹がすいていたので、スープもパンもおかわりをもらう。手作りのマーマレードジャムがうまくてうれしい。物が限られていると、ほんの小さなことで幸せを感じる。

マクサット君が馬の様子を見に行き、お母さんがお皿を下げに行き、子どもと僕だけになった。その子は、残りのパンをまだボソボソと齧っている。
この大自然の中で、ごく限られた物資で子ども時代を過ごすこの子は、僕達とはまったくちがった目で世界を見て生きていくんだろうなぁ。

食事の片づけを終えてから、ユルトの中で日記を書く。
日付を入れると、今日は9月11日。どこかの国で何かが起きているかもしれないなぁ、と思う。しかし、ここはそんな世界とはまったく無関係の時間が流れている。水道も電気もトイレもない、だだっ広い草原の中にいると、飛行機が高層ビルに突っ込むような現実が想像もできなくなる。

「おにぃちゃん、これを使いなさい」と言って、お母さんが石油ランプを持ってきてくれた。
「あぁ、ありがとう」
「寝る時はちゃんと消してから寝るんだよ」
「はい」
円卓に置いた小さな石油ランプの灯をとても明るく感じる。
蛍光灯、ネオン、照明……。明るさに溢れた中で生活していると、ひとつひとつの灯の暖かさに鈍感になってしまうのかもしれないなぁ。

夜8時半、すっかり日も沈み切って、辺りは漆黒の闇。
空は徐々にプラネタリウムと化してくる。
遠い遠い星空をボーっと見ていると、近くにいてくれる人が愛おしくなる。
体が冷えてきたのでユルトに戻り、マクサット君とぐだぐだおしゃべりしてから、午後10時頃に布団に潜り込んだ。昼間は半袖Tシャツだったが、夜は長袖シャツにフリースを着込んでも寒い。3枚重ねのずっしりした布団に入ってしばらくして、ようやく体が温まってきた。
馬が草を食む音を遠くに聞きながら、「おやすみ」。

深夜遅くにトイレに立った。
マクサット君を起こさないように、そっとユルトの外に出ると頭上には満点の星空。照明灯のように、星が空を埋め尽くしている。自然ってすごく神聖なものなんだなぁと思う。
人のできることは高が知れているなぁ。僕が考えていること、世の中で起きていること、大抵のことは大したことじゃないのかもなぁ。
真っ暗闇の中で小便をした後、しばらく空を見上げていたが、すぐに体が冷えてきたのでユルトに戻って布団に入った。

翌朝、朝食にピロシキをいただき、小川で顔を洗って、草むらで野グソをした。
次のユルトへ出発する前、持参していた三線で、家族へのお別れの挨拶代わりに3曲ほど歌った。
「ありがとう。また会う日まで」
赤ら顔の主人とがっちり握手をして、僕とマクサット君はキレムチェのユルトを後にした。(終)

写真館「キルギスタン」に馬旅中の写真があります。

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