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旅の写真日記

+ ダラットのくじ売り少女(全3頁)

旅の写真日記
ダラットのくじ売り少女 (1)

夢を語る時の人の顔はいいものだ。
キュッと凛々しい顔、楽しくて仕方ない顔、気恥ずかしそうな顔、まだ迷いながら言葉を探している顔。

ベトナムの高原の町、ダラットに来た。坂だらけのこの町では、ベトナム名物の人力三輪車シクロの姿はさっぱり見かけない。
ある日の午前、目抜き通りの坂に沿って並ぶカフェの一軒でパイナップルシェイクを飲んでいると、ひとりの少女が店の階段を上ってきた。日本で言う「ナンバーズくじ」を売り歩いている子だった。
店内には僕と店員の2人しかいない。その子はまっすぐ僕の方へやってきて、右手に持ったくじの束を差し出した。僕をベトナム人と思っていたようだ。
「ごめんね、日本人だからいらないよ」と言うと、その子は少し驚いた顔をした。そして、僕の日記帳に書かれた日本語を熱心に眺めて、ニコニコ笑いはじめた。
「ここ座っていい?」
「いいよ」
バン・アンちゃんという13歳のその少女は、僕の正面に腰をおろし、ニコニコ笑い続けた。
お茶を勧めると一度は断ったが、「いいから飲みなよ」と促すと、少し考えてから、アンちゃんはコップの冷たいお茶をぐいと飲み干した。朝夕は涼しい避暑地とは言え、日中は強い日差しですぐに汗ばむ。
「これ数字くじだよね。今日は日曜日だから学校はないんだね」
(あっ、そうじゃない!)と気づいたときは、もう口から出てしまったあとだった。
「ううん…学校には行ってない……」
アンちゃんの笑顔が陰った。僕は少しあわてて話を継いだ。

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