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旅の写真日記

+ 行きずりの人(全2頁)

旅の写真日記
行きずりの人 (2)

パイリンを発つ日の早朝、テイは仕事の都合をつけて僕の宿に迎えに来てくれた。
バイクタクシー乗り場まで送ってくれ、別れ際に「おみやげです」と言って、黒い小さな天然石を僕の手に握らせた。僕は手紙と写真を送ることを約束して、手を振って別れた。

バイクタクシーで30分ほどで国境に着いた。国境市場が立ち、地元民の交易のための往来がほとんど。のどかで、活気のある国境だ。
僕を乗せてきたバイクタクシーの男は、イミグレの窓口まで一緒に来て、僕の手続きを手伝ってくれた。「じゃ、気をつけてな」みたいなことをクメール語で言いながら、笑って見送ってくれた。

タイ側のイミグレのおじさんは、片言の英語を話すが、旅行者相手の業務にはまだ慣れていない様子。僕がパスポートを渡すと、狭い部屋をバタバタと慌ただしく駆け回っていた。
手続きを終えるとおじさんは部屋から出てきて、「どこへ向かうの?」と聞いてきた。「バンコク」と答えると、近くにいたバイクタクシーを呼び寄せ、行き先と値段を交渉してくれた。僕がまだタイバーツを持っていないことを告げると、おじさんは「うーん」とひと唸りして、部屋に戻り自分の机からお金を持ってきて両替してくれた。礼を言うと、おじさんは片手をこっちに上げながら、いそいそと部屋に戻っていった。

旅のあいだ、僕が助けられたり、短い時間、共に楽しい時間を過ごせたりしたのは、こうした行きずりで出会うごく普通の人たちだ。
社会的地位があるわけでも、世間的に華やかな人でもなく、大金持ちでもない。日常を地道にまっとうに生きる生活者。
ひとりの外国人を国境まで運び、見送る。バイクを駆って町に戻り、くみおきの水で水浴び。板葺きの家で、今日一日の出来事を多少の誇張を交えてしゃべり始める。近所の人や、友達と軽口を叩き合う。行きつけの屋台のおばちゃんに親しまれ、何より家族を大事にする。そして、最愛の伴侶である肝っ玉かあちゃんを心から愛し続ける。
そんなひとりの男の暮らしに、勝手な想像をめぐらせてしまう。(終)

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