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旅のはじまり
(4) アメリカ帰りのひと騒動��
大学院の修了を目前に控えた年の2月、僕は1ヶ月半のアメリカ旅行をした。
4月の就職に備えてシカゴで3週間英語研修に通う、というのがアメリカ行きの名目だった。 だが、本当のところは少しちがった。仕事が始まれば次にいつ長旅ができるかわからない。その前に好きなブルースを本場でたっぷり聴いてみたい、というのが一番の動機だった。アメリカはまだ同時多発テロの衝撃が醒めあらぬ頃だった。 ニューヨーク、シカゴ、ニューオリンズ、メンフィス。 ブルースにゆかりのある街を、飛行機とグレイハウンドを使って周った。バー、ライブハウス、アスファルトの路上。街の至るところに音楽が溢れていた。 中でもニューオリンズの路上ミュージシャンの姿は、僕の心に強く焼きついた。 使い込んで色褪せた生ギター、かすれた音のアコーディオン、バケツと竿とロープ1本で作った簡易ウッドベース、壊れて出ない音だらけのブルースハープ。 身体の底から搾り出された声が、無限の空間に解き放たれ、ニューオリンズの空に響き渡っていた。 金を持っていそうなミュージシャンは皆無だった。彼らの、全身で音楽を楽しみながら、合間に見せるふとした寂し気な表情が、僕は好きだった。 毎日毎日、僕はフレンチクウォーター近くの路上で、彼らの音楽を聴いた。 人間どうやったって生きていける。こんな時間をできるだけたくさん重ねていけたらいいなぁ、と思った。 それならば……。 |