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旅のはじまり



(2) 旅する日々��
大学2年の夏の終わりに、友人とふたり鈍行列車で東北を周る旅をした。
5日間の短い旅だったが、列車時刻表だけを頼りに、その日のことはその日に決める毎日を「おもしろい!」と思った。
その日どこで列車を降りるか、その土地に何があるのか、どこの宿に泊まるか。すべては行ってから始まる。
それまで家族旅行しかしたことがなかった僕は、予め何も決めておかない旅というものが世の中にあることを、驚きとともに知った。

2度目の旅はひとりだった。11月の初めに、また東北に行った。
夜半に着いた宮城県の女川で、泊まれる宿がなかなか見つからず、ずいぶん歩き回った。夜中にひとりで宿を探していると家出か事件絡みかと思われて警戒される、と後になって知った。
東北の港町、晩秋の風は冷たかった。
闇に沈んだ海のそばにある、小さな民宿にようやく泊めてもらえた。夜の9時近くになっていたが、僕はまだ何も食べていなかった。腹をすかせた僕に、宿の老夫婦が出してくれた夕食、インスタント麺と塩味の強い漬物とあったかいご飯の味は、今もはっきりと思い出せる。
その後、福島の山間の駅からバスに乗り換えて辿り着いた小さな温泉郷で、紅葉を終えたばかりの山々を見ながらのんびりと湯につかった。
ひとり旅ってのもいいもんだな、と思った。

その年の暮れに、姉とふたりでタイを旅行した。
僕にとって、実質初めての海外旅行だった。姉は現地で働いている友達と過ごす時間が多かったので、僕はひとりバンコクの町を歩き回った。
2日目の夜、ムエタイの試合を観戦し終えてスタジアムを出た。僕は異国の夜にひとり投げ出された心細さと、それを上回る底なしの解放感に身震いした。
日本を出る直前に患った腎臓結石をバンコクで再発させて、ひと騒動起こした旅だったが、この旅をきっかけに僕はアジアの空気に惹かれ始めた。

タイから帰国後はアルバイトの日数を増やし、お金を貯めた。「留学しよう」と思ったのだ。行き先はアジアのどこか。よく知らないからどこでもよかった。とにかく、人の熱気が町ごと瓶詰めされたような、あのアジアの空気感の中に自分の身を置いてみたかった。
戦争のことには関心があったので、ベトナムにピンと来た。
よし、ベトナムへ行こう。
大学の語学機関で「ベトナム語初級」という講座を受け、あいさつぐらいはできるようにして、翌年ベトナムへ発った。

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