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旅のはじまり



(3) 旅する日々��
ベトナムでの日々は刺激的だった。
朝の2時間だけベトナム語の授業を受け、残りの時間はどこで何をしていてもよかった。僕は、友達になったベトナム人と、日本語・ベトナム語を互いに教え合って時を過ごすことが多かった。それでもたっぷり時間は余ったが、使えるお金は限られていたので、暇な時間は近くの庶民街をぶらついたり、小さな路上カフェでぼんやりしたりして過ごした。
自分とはまったくちがった価値観で日々を過ごしているベトナムの人たちの暮らしに僕は戸惑い、そして惹き込まれた。旅人、留学生、駐在員、移住者など、様々な理由で自分の国を離れている人たちの話は新鮮で、僕の好奇心を掻き立てた。東京のキャンパスとはまったく異質な空間だった。

バックパッカーという言葉を知ったのはこの頃だ。
ホーチミン市の僕の下宿は、バックパッカーがよく利用する安宿街にあった。近くにうまいフルーツシェイク屋があり、大の果物好きの僕はよくそこへ通った。店には世界各国からのバックパッカーが集っていた。
旅のことなど何も知らない僕は、彼らの話を聞いて、「えっ、1年も旅して周るの? 宿の予約は? ビザは取れるの? 航空券は? 何語でしゃべるの?」と大いに驚いた。海外を予約なしで旅する人がいるなんて、すごい。すごすぎる。僕もやってみたい。行ってみようかな。
ベトナム留学の最後の2ヶ月を使って、僕は初めてのバックパッカー旅行に出ることにした。
現地にある各国の大使館でビザを発給してもらうこと、自分の足で国境を越えていくこと、バスで乗り合わせた同じような旅人と出会い、話し、時には数日を一緒に過ごすこと。どれも新鮮で、快感を伴った。そうした作業や行為を自分ひとりでやって進むこと自体が、景勝地や名跡を周ってフィルムに収めることより、何倍も楽しかった。

1年間の留学を終えて日本に帰ると、仲間たちは卒業を目前に控えていた。
やがて桜の季節が来て、彼らはキャンパスを去り、それぞれの新しい暮らしへ旅立っていった。
僕は、休学していた1年分の授業と卒業論文のため、キャンパスに残った。
気持ちの半分は卒業後の進路のことを模索しながら、もう半分は次なる旅の計画に心躍らせながら、その1年間を過ごした。
その年は、モンゴルやミャンマー、バングラディシュを旅した。
無事卒業論文を書き上げ、1年遅れで僕は大学を卒業した。
卒業後は別の大学の大学院へ進むことに決め、実家のある広島へ戻った。

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