|
|
旅のはじまり
(1) 自分だけの合言葉
「20代のうちは好きなことやろうや」
が合言葉だった。 分かれ道に立った時、あれこれ考えを巡らせはするが、最後に自分の背中を押すのはこんな言葉。 もっとも、これは僕ひとりの合言葉だったのだけれど。 学生時代に僕はよく、西宮にある友人の実家へ遊びに行った。気心の知れた友達数人と連れ立って押しかけることが多かった。 夜になると酒を飲みながら、いろいろなことを話した。大学生活のこと、恋愛話、将来のこと、僕らをつないでくれたひとりの友人の話……。夜が更けるにつれ、話は心の奥の奥の方にある思いへ移っていった。布団の上に倒れ込むまで、僕らは語り合った。 二十歳そこそこの僕らがする話は、何かにつけ世間知らずの青臭い話が多かったかもしれない。友人のご両親は、そんな僕らの話を喜んで受け入れてくれ、笑い、語り、涙し、同じように布団の上に倒れ込んだ。 大き目のちゃぶ台と酒と僕ら以外には何もない。世間も時間も立ち入れない。 そんな時間が僕は好きだった。 「20代は好きなことやっててええやろ。30で定職に就ければええじゃない」。 そんな言葉だったと思う。友人のお父さんが何気なく口にした一言が、僕には強く残った。 東京の大学に入って2年目の夏のことだった、と記憶している。 次へ→ |